企画展「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」2022年12月10日~2023年2月26日 横浜市歴史博物館

金属活字、写植書体やデジタルフォントなど、文字を同一の字形で繰り返し表現するものを「活字」といいます。鋳造活字による印刷は、1400年代半ば、グーテンベルクにより始められ、開国後、日本へ伝来しました。活字と印刷術の伝来により、印刷される文字数と印刷部数は、格段に増加しました。明治期以降、海外からの未知の情報や新たな知識、明治維新を機に新たに作られた組織の仕組みや法律などが、活字を通して、広く各地に伝播していきました。

本展示では、活版印刷と漢字活字の誕生、活字と印刷術の日本への伝来、そしてその後の発展の歴史をたどります。デジタルフォントに囲まれた現在の文字文化の原点を探り、身近にある活字の世界を振り返る試みです。

「主の祈り」1805年 当館所蔵 小宮山博史文庫
「主の祈り」1805年
当館所蔵 小宮山博史文庫
ロンドン伝道会の印刷技師、リチャード・コールが作成した活字(13.5ポイント)右から私・簒・種 鈴木広光氏所蔵
ロンドン伝道会のサミュエル・ダイアと
リチャード・コールが作成した活字
(13.5ポイント)
右から私・簒・種 鈴木広光氏所蔵
築地活版製造所製の印刷機(ハンドプレス)ミズノプリンティングミュージアム所蔵
築地活版製造所製の印刷機
(ハンドプレス)
ミズノプリンティングミュージアム所蔵

日本の印刷

日本の印刷は、奈良時代に始まりました。鎌倉・室町時代には、寺院で一枚板に文字や図案を彫刻して摺る整版印刷が行われます。16世紀末には、活字によるキリシタン版や古活字本が刊行されましたが普及せず、江戸時代以降、絵草紙や浮世絵など、整版による印刷が盛んになりました。

嵯峨本『富士太鼓』
嵯峨本『富士太鼓』
富士太鼓
嵯峨本『富士太鼓』
[慶長年間(1596-1615)]ミズノプリンティングミュージアム所蔵

グーテンベルクと世界三大美書

グーテンベルクが鋳造活字を用いた活版印刷術を発明し、ラテン語聖書を印刷したのは、1450年頃でした。そして、その技術は程なく欧州各地に伝わりました。イギリスでは、活版印刷術の伝来から約400年後、アルファベットで組まれた世界で最も美しいといわれる書籍が誕生します。

グーテンベルク聖書
グーテンベルク聖書
42行ラテン語聖書 一葉
1455年頃 ミズノプリンティンミュージアム所蔵
グーテンベルク聖書 42行ラテン語聖書 零葉

漢字活字の誕生と伝来

明朝体は、中国の明王朝から清王朝に完成した整版(木版)印刷のための文字書体です。しかし活版印刷用の明朝体活字が作られたのは、中国ではなく、東洋学が盛んになったヨーロッパでした。

欧米各国のキリスト教会宣教団の活動が活発化し、アジア各国への布教が始まると、各地で聖書の翻訳と出版が行われました。頁のなかに多くの情報を盛り込み、多数の部数を印刷できる活版印刷が、アジア各国で行われるようになります。

19世紀、プロテスタント各派の宣教師たちは、伝道に使う聖書や教書を印刷するために、漢字活字を作り集めました。優れた印刷技術で数々の書籍を印刷した上海の美華書館館長、ウィリアム・ギャンブルは、日本語を印刷するために必要な仮名の活字も製造しました。

フランスで印刷された『150の言語の主の祈り』
フランスで印刷された『150の言語の主の祈り』
ジャン・ジョセフ・マルセル編 パリ フランス帝立印刷所 1805年 当館蔵・小宮山博史文庫
150の言語の主の祈り
サミュエル・ダイアの24ポイント活字見本一葉
24ポイント活字見本一葉
サミュエル・ダイアの24ポイント活字見本一葉
[1837年] 当館蔵・小宮山博史文庫
ダイアとコールが制作した活字
サミュエル・ダイアとリチャード・コールが制作した活字
鈴木広光氏所蔵
サミュエル・ダイアとリチャード・コールが制作した活字
ウィリアム・ギャンブルとサムライ
ウィリアム・ギャンブルとサムライ
米国議会図書館所蔵 ウィリアム・ギャンブル・コレクション
ウィリアム・ギャンブルとサムライ

横浜の印刷物

本木昌造は、明治2(1969)年11月から4ヶ月間、ウィリアム・ギャンブルを招聘し、金属活字の鋳造術と活版印刷術を学びました。その技術を、部下を派遣し、京都・大阪・東京・横浜に伝えました。横浜でも、長崎伝来の活字を用いた書籍が刊行されました。

様々な活字と印刷物

●消えた活字

横浜が開国した1859年11月、神奈川湊に上陸したS.R.ブラウンは、1863年、上海の美華書館で『会話日本語』を刊行しました。そこには、わずか数冊の印刷にしか使われなかった謎の片仮名文字が使われています。

●日本人が開発した活字

幕末から明治初頭にかけて、海外から入手した書籍を通じて、活版印刷についての情報を得た人々のなかには、活字の制作と印刷を試みる人も現れました。

●N.ブラウンによる印刷物

バプテスト派宣教師ネイサン・ブラウンは、明治6(1873)年に来日しました。横浜の山手に印刷所を設け、平野活版製造所の連綿体活字で、新約聖書の分冊版を翻訳・刊行し、明治13年には『志無也久世無志與』を刊行しました。

『與波子亭無』
『與波子亭無』
『與波子亭無』
ネイサン・ブラウン訳刊 明治15(1882)年 横浜開港資料館所蔵
與波子亭無

●東京築地活版製造所

東京築地活版製造所は、本木昌造の門弟である平野富二(1846-1892)により東京で開設された崎陽新塾出張活版製造所が発展した活版製造所です。関東大震災で新本社工場が罹災し勢いを失い、昭和13(1938)年に解散します。

●活版製造所周拡合資会社

周拡合資会社は、明治8(1875)年に設立された周拡社を創始とし、明治40年代前半まで存続した大阪の活版製造所です。隷書体と大和古印の活字見本帳を見ることができます。

●秀英舎鋳造部製文堂

製文堂は、明治9(1876)年に創業した秀英舎(現在の大日本印刷株式会社)の活字製造部門で、明治15年に創設されました。明治23年頃から自社独自の活字書体を手がけ始めます。

『活字類見本 未完成』
『活字類見本 未完成』
活字類見本
『活字類見本 未完成』
製文堂 明治27(1894)年1月 当館蔵・小宮山博史文庫

●青山進行堂活版製造所

青山進行堂活版製造所は、青山安吉(1865-1926)が明治22(1889)年に創業した大阪の会社です。書体の品揃えは豊富で、一時は大阪最大の活版製造所でした。

●日本硝子活字製造所

日本硝子活字製造所は、昭和初期、東京市外南品川(現在の東京都品川区)にあり、石英・ソーダ等を炉で溶解し作るガラスで活字を鋳造販売した会社です。

●精興社

精興社は、大正2(1913)年、白井赫太郎(1879-1965)により東京に設立された印刷会社です。昭和初頭、種字彫刻師の君塚樹石に依頼し活字の改刻改良を行い、自社書体「精興社書体」を完成させました。

『大日本古記録 二水記』の1~4頁までの組版
『大日本古記録 二水記』第3巻の1~4頁までを組んだ組版
精興社所蔵
『大日本古記録 二水記』印刷原本
『大日本古記録 二水記』印刷原本
精興社所蔵
二水記

直彫からベントン・デジタルフォントへ

初期の金属活字は、同じ文字でも活字の大きさごとに父型(原寸種字)を彫る必要がありました。そして、ベントン彫刻機の登場により、活字の制作法は大きく変ります。その変化は、1960年代の写真植字、1980年代以降のデジタル・フォントの登場と続きます。

会期
2022年12月10日(土)~2023年2月26日(日)
会場
横浜市歴史博物館
開館時間
9時~17時(券売は16時30分まで)
休館日
月曜日(1月9日は開館)、12月28日(水)~1月4日(水)、1月10日(火)
観覧料
  企画展 企画展・常設展共通
一般 1000円
(800円)
1,200円
(960円)
大学生・高校生 700円
(560円)
800円
(640円)
中学生・小学生
横浜市内在住65歳以上
500円
(400円)
550円
(440円)
企画展
  • 一般 1,000円(800円)
  • 大学生・高校生 700円(560円)
  • 中学生・小学生・横浜市内在住65歳以上 500円(400円)
企画展・常設展共通
  • 一般 1,200円(960円)
  • 大学生・高校生 800円(640円)
  • 中学生・小学生・横浜市内在住65歳以上 550円(440円)

※ ( )内は団体(20人以上)料金です。
※ 毎週土曜日は、小・中・高校生は無料です。
※ 障がい者及び付添の方は無料です。
※ 補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)とご一緒に入館できます。

主催
(公財)横浜市ふるさと歴史財団
共催
横浜市教育委員会
協力
ミズノプリンティングミュージアム
後援
朝日新聞横浜総局、神奈川新聞社、産経新聞社横浜総局、東京新聞横浜支局、日本経済新聞社横浜支局、毎日新聞社横浜支局、読売新聞横浜支局、tvk、FM ヨコハマ
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、会期・関連イベント等については、変更する場合があります。
最新の情報は横浜市歴史博物館ホームページまたはお電話にてご確認ください。

1連続講座
「印刷と文字・活字のお話し」全5回

*申込締切の日程は変更になる可能性があります。
※ 1講座分の受講料が無料になります。
各講座ごとにお申込み

①「木版印刷のゆくえ」

日時
2022年12月11日(日)14:00~15:30(13:30開場)
講師
鈴木俊幸氏(中央大学文学部教授)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
先着 WEB 申込
申込締切
12月10日(土)17:00まで
お申込みは先着順

②「日本の近代と活版印刷技術」

日時
2022年12月17日(土)14:00~15:30(13:30開場)
講師
鈴木淳氏(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
先着 WEB 申込
申込締切
12月16日(金)17:00まで
お申込みは先着順

③「明治初期平仮名活字への違和と順応」

日時
2023年1月22日(日)14:00~15:30(13:30開場)
講師
岡田一祐氏(北海学園大学講師)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
抽選 WEB 申込 往復はがき申込
申込締切
2023年1月5日(木)【WEB】17:00まで/【はがき】締切日必着
お申込みはWEB・はがきともに抽選

④「書体を読む―活字文化とメディア表象―」

日時
2023年1月28日(土)14:00~15:30(13:30開場)
講師
正木香子氏(文筆家)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
抽選 WEB 申込 往復はがき申込
申込締切
2023年1月11日(水)【WEB】17:00まで/【はがき】締切日必着
お申込みはWEB・はがきともに抽選

⑤「ベントン彫刻機と日本の活字デザイン― 三省堂の果たした役割」

日時
2023年2月11日(土)14:00~15:30(13:30開場)
講師
雪朱里氏(著述業)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
抽選 WEB 申込 往復はがき申込
申込締切
2023年1月25日(水)【WEB】17:00まで/【はがき】締切日必着
お申込みはWEB・はがきともに抽選
連続講座①~⑤全5回まとめてお申込み
※1講座分の受講料が無料になります。
日時
①12月11日(日) ②12月17日(土) ③1月22日(日)
④1月28日(土) ⑤2月11日(土)
各回14:00~15:30(13:30開場)
講師
① 鈴木俊幸氏(中央大学文学部教授)
② 鈴木淳氏(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授)
③ 岡田一祐氏(北海学園大学講師)
④ 正木香子氏(文筆家)
⑤ 雪朱里氏(著述業)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
4,000円(5回一括)
定員
各回170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
先着 WEB 申込
申込締切
12月10日(土)17:00まで
※お申込みは先着順
※1講座分の受講料が無料になります。

2特別講演会「七つの仮名書体」

*申込締切の日程は変更になる可能性があります。
日時
2023年2月5日(日)14:00~15:30(13:30開場)
講師
鳥海修氏(書体設計士)
会場
横浜市歴史博物館 講堂
参加費
1,000円
定員
170名(申込み多数の場合は抽選)
申込方法
抽選 WEB 申込 往復はがき申込
申込締切
2023年1月18日(水)【WEB】17:00まで/【はがき】締切日必着
お申込みはWEB・はがきともに抽選

3ワークショップ
「テキンで活版印刷」

ワークショップ「テキンで活版印刷」
日程
2月12日(日)・2月18日(土)
時間
10:00〜11:30、13:30〜15:00
会場
博物館エントランス・ホール
費用
300円/回
事前申込み
事前申し込み不要です。会場にお越しください。

4展示担当者による展示解説

日時
2023年1月21日(土)/2月4日(土)/2月23日(木)
各日14:00~(30分程度)
参加費
無料 ※企画展入場券が必要です
事前申込み
不要 企画展示室前にお集まりください


図録のご案内

「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」展 公式図録
「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」展 公式図録
価格1,800円(税込)
12月10日発売!当館ミュージアムショップまたはオンラインショップでお求めください

出陳資料一覧

「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」展 出陳資料 1
「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」展 出陳資料 2
「活字 近代日本を支えた小さな巨人たち」展 出陳資料(PDF)

横浜市歴史博物館
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