新しい質問

Q 横穴墓ってなんて読むのですか?
 いくつかの講座や見学会などに参加したことがあり、そこで「横穴墓」について違う呼び方をしていたのが気になりました。なんと呼ぶのが正しいのでしょうか? 匿名さんからのご質問
 

A 私たちが使用している専門用語には難解なものが多く、そういった語句についてはその都度、読みや説明を加えるように心掛けています。しかし、あまりにも日常的に使っている語句については、一般の方も理解しているものと勘違いをして、説明不足になってしまうことがあります。ですから、このような質問をされると、自らの配慮のなさを再確認させられます。これからは徐々に改めていきたいと思います。
 さて、ご質問の「横穴墓」は読みようによっては「おうけつぼ」とも読めますが、「よこあなぼ」と呼びます。知っている方もいらっしゃるかと思いますが、横穴墓とは、一般的に古墳時代後期を中心としたの埋葬方法のひとつで、崖面や斜面に横穴を穿(うが)って死者を埋納する施設(お墓)のことをいいます。また、人によっては横穴(よこあな・おうけつ)、横穴古墳(よこあなこふん)などさまざまな呼称が使われています。なぜこう呼ぶのかについては、横穴墓の研究史をおさらいしないとなりません。
 明治時代の初期、日本で考古学が研究され始めた時期に、はたして「横穴」が何のために造られたものなのかについての論争がありました。これは、いわゆる穴居論争(けっきょろんそう)と呼ばれるものでした。主に埼玉県東松山市で調査された吉見百穴(よしみひゃっけつ)の成果をもとに、論戦が繰り広げられたのです。ある研究者は、発見された200基以上の「横穴」が『日本書紀(にほんしょき)』や『古事記(こじき)』に出てくる土蜘蛛(つちぐも)と呼ばれる地方の先住民(ネイティヴ)の住居として造られたものと主張し、また他の研究者はお謔ナあるという考え方を主張していました。このときに用いられていた「横穴」という名称は、遺構の機能がはっきりしていなかったため、お墓という意味合いで付けられたものではなく、単に横方向に穿たれた穴という以上の意味は持ってはませんでした。激しい論争は3年間にもわたりましたが、最終的には「横穴」はお墓であるという結論に至りました。しかし、このときに使用されていた「横穴」という名称がそのまま用語として定着したのです。
 その後、「横穴古墳(よこあなこふん)」の名称も用いられるようになりました。こちらは高塚古墳に対する呼び名としては非常にしっくりとしたもので、大正時代から徐々に使われるようになり、昭和の初めから中頃にかけては「横穴」と二分されるほどまで使われるようになりました。「横穴墓」という呼称が使われはじめたのは昭和40年代以降になってからのことで、現在では「横穴古墳」をおしやって、ついには主流をなすまでに至っています。概して横穴墓の分布が希薄(きはく)な関西地域などの研究者の間では「横穴」、分布が濃密(のうみつ)な関東地域などの研究者の間では「横穴墓」という呼称を用いる傾向があるようです。ただ、現在では全国的にも「横穴墓」という名称が浸透してきていることから、「横穴」という名称は時代の趨勢(すうせい)として消失していく傾向が予想されています。
 また、読み方についてですが、「横穴墓」は「よこあなぼ」と「おうけつぼ」2通りの読み方をすることができます。しかし、穴居論争時に「よこあな」と称されていたこと、また、高塚式古墳の埋葬施設の1つである「横穴式石室(よこあなしきせきしつ)」のことを決して「おうけつしきせきしつ」とは言わないことからも明白なように、「よこあなぼ」と呼ぶのがふさわしいものと考えられています。
 さらに詳しいことについては、横穴墓研究の第一任者である立正大学教授の池上 悟氏の著書『日本横穴墓の形成と展開』(雄山閣)に詳しく書かれていますので、こちらを参考にしてみてください。

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