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けつ状耳飾のはなし

 けつ耳飾(けつじょうみみかざり)ってご存知ですか? 耳飾りっていうことはアクセサリーだろうけど、けつってなんだろう? 今回はけつ状耳飾についてお話しします。
 「けつ」とは中国の河姆渡文化(かぼとぶんか)や紅山文化(こうざんぶんか)などでみられるの玉器(ぎょっき)のことです。けつ状耳飾はこの玉器の「けつ」の形に似ていることからけつ状耳飾と名付けられました。「けつ」という字(ごめんなさいWEB上では表示できません)はあまり見かけたことがない字ですが、この字に非常に似た字に「抉」という字があります。こちらも音読みではケツと読み、訓読みではえぐると読みます。こちらの字は、指をかぎ型にしたり、あるいはかぎ形の道具でえぐりとるという意味を持っています。おそらく「けつ」という字はこの造りの部分に玉器であるので王偏(たまへん)を付けたものと思われます。私たちの使う専門用語のなかには、形のなれそめなどを重用視する風潮があるので、普通のワープロでは出てこない難しい文字が使われることがありとても大変です。
 けつ状耳飾は縄文時代早期末から出土し始めます。そして前期に全国的に流行し、この時期の一般的な装飾品として用いられるようになりますが、中期の初頭にはほぼその出土はなくなります。また、一般的な装飾品といっても誰もが使用していたものではなく、栃木県の根古屋遺跡という遺跡では179体の人骨が発掘されていますが、けつ状耳飾を伴っていた人骨は、わずかに2体だけでした。このようなことから、このけつ状耳飾は特定の人しか装着することができなかったアクセサリーであることが推測されます。けつ状耳飾の原材料の多くは、比較的硬度が低く柔らかい滑石や蛇紋岩が用いられています。その形状は、うすべったい形をしているものが多くなっており、はじめはこれが耳飾りであるということは分かりませんでした。しかし、大阪府の国府遺跡などで発掘されたものは、頭蓋骨の両脇に一対になって見つかっており、このことから耳飾りであることが分かりました。
 では、けつ状耳飾はどのようにして使われていたのでしょうか? このけつ状耳飾はいわゆるピアスの一種です。耳たぶに穴を穿ち、その穴に飾りの切れ目の部分から通していき、全体を半回転させることで切れ目の部分が下にくるようにして装着させていたようです。
 視力検査の時に使うランドルト環でいえば「下」って感じです。このようにして装着する耳飾りは、縄文時代中期からいったんなくなってしまいますが、古墳時代になると耳環(じかん)と呼ばれる、同じような方法で装着する耳飾りが使われるようになります。こちらの話しはまたいつか機会があったら説明させていただきます。
 写真の?状耳飾は港北区寺谷戸(てらやと)遺跡から出土したけつ状耳飾です。お墓の性格を持つ土坑と呼ばれる素掘りの穴から出土したものです。土坑の大きさは55×44cmほどの円形に近いもので、遺構が見つかった面から20cmほどしか掘り込みは残っていおらず、非常に浅い土坑でした。この土坑からは写真のほかに2個見つかっており、計3個の
?状耳飾が1つの土坑に納められていました。
 この耳飾りの大きさは左右が5.5cm、上下が5.0cm、厚さは0.3cmで、よくみると割れた部分をはさんで穴があります。滑石は非常に柔らかく、また壊れやすい石なので、使っている途中で壊れてしまい2つの破片を紐のようなものでつなぎ合わせていたことが推測されます。
そういえば、耳は2つしかないのに3個出土したのは不思議ですよね。もしかしたら遺構が見つかった面より上にもう1個あったのかも知れません。また、2つに分かれている写真の左側の破片の下側の穴と右側の破片の縁にある穴の痕跡は、破片どうしをくっつけるとほぼ同じ位置にあたりますが、わずかにずれているようにも見受けられます。壊れてしまった耳飾りをペンダントのようにしてリサイクルしていた可能性も考えられます。あなたはどう思われますか?  

 

 

寺谷戸遺跡出土けつ状耳飾 

壊れた後に加工している?

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