新しい質問

Q 土器を組み立てるのにはどれくらい時間がかかるのですか?
 
博物館に展示してある土器をよくみると、いろいろな形に細かく割れていました。そばにいる人に聞くと組み立てているんだと説明してくれました。その時に思ったのですが、1つの土器を組み立てるのにどれくらいの時間がかかるのでしょうか? よろしかったら教えてください。
(緑区 お孝さん 主婦 からの質問)

 

 

A 発掘調査で掘り出される土器のほとんどは割れた状態で見つかります。それは、もともと割れてしまった土器を捨てたり、捨てた時に割れてしまったからです。また、たとえ廃棄された時に完全な状態であっても、長い間土の中に埋もれていた結果、土の圧力で割れてしまうこともあります。このように発掘調査の時にバラバラの状態でみつかることが多い土器は、どこから見つかったのか記録しながら取り上げます。この記録が、土器を組み立てる時に非常に役に立つからです。
 一旦割れてしまった土器の破片も、ずっと割れた位置にとどまっている訳ではありません。気象の変化や地震や地滑りなどによって少しずつ動いたり、土の中で生活する生き物によって動かされたりします。また、人為的に動かされる場合もあります。しかし、よほどのことがない限り、ある程度の範囲にまとまっています。ですから、どの位置から出土したのかをきちんと控えておけば、出土した位置が近いものから探していけばよいので、探し易くなるという訳です。
 さて、土器などの遺物は、埋蔵文化財センターへ持ち帰ると、まず水洗いをします。長い間土に埋もれている土器の破片には、割れ口や文様の間に土がこびりついてなかなかきれいになりません。そこで、歯ブラシに似た形をしたブラシで丁寧に泥汚れを落としていきます。この時に、歯ブラシのように硬いブラシでこすってしまうと、泥と一緒に土器の模様や塗料などがとれてしまうことがあるので、適度な硬さのブラシを使って洗います。
 洗った後は、よく乾燥させ、ポスターカラーなどを用いて注記(ちゅうき)をしていきます。注記とは、遺跡名や遺構名、出土位置や出土層位などの注意書きのことで、遺物の1点1点に書き込んでいきます。また、ポスターカラーで書かれた文字はこすれるとすぐに消えてしまうので、その上から保護用の液体を塗っておきます。この注記をしておけば、整理中に万が一違う場所に入れてしまっても元の場所に戻すことができます。
 こうして注記が終わった土器片を、その出土位置が近いものから探し出していきます。この接合できる土器片を探す作業が一番時間がかかる作業となります。土器片の外側と内側、上と下など文様や厚さなどをヒントにもとの形に復原していきます。この時、接合できる部分をチョークなどでマーキングしておきます。これは、すぐに接合してしまうと後に歪(ゆが)みができてしまう恐れがあるからで、歪みをなるべく出さないようにするためです。大きな土器や土器の厚みが薄いものほど歪みが出易く、きちんと接合したつもりでも少しずつ歪みができてしまい、土器が一周する頃には本来は接合する場所がまるっきりつかなくなってしまうこともあるほどです。ですから、だいたいの接合状況が分かってから接着剤で接合していくのが、土器を組み立てる時のテクニックとなります。
 ご質問の土器の組み立てというのが、どこからかを言っているのかが問題となりますが、単に組み立てる時間だとすると、土器の大きさにもよりますがだいたい2日くらいあれば形にはなります。組み立てが終わった後は、どうしても見つからなかった部分に石膏を入れて復原し、強度を補っていきます。こちらも場合によって異なりますが、1〜3日の作業となります。
 全部の作業が終わったら着色作業です。石膏部分にポスターカラーなどを用いて、着色していきますが、この時にあまり土器に似すぎない同系色の色に着色していきます。なぜ、似過ぎはいけないかというと、展示した時にどこまでが本当の土器で、どこからが復原か見ている人が分からないと困るからです。
 簡単に土器が組み立てられるまでの工程を説明しましたが、分かりましたでしょうか? 個別の作業については書き足りない部分もありますので、また別の機会に説明したいと思います。


整理作業の様子(左上:水洗作業 右上:注記作業 左下:復原作業 右下:拓本作業) 

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