ためになる?豆知識

炉のはなし

 以前カマドのお話をしましたが、その時にカマドが使われるようになる前には炉(ろ)と呼ばれるものを使用していたことを簡単に説明させていただきました。

 今回はこの炉について説明させていただきます。

 一般の方が「炉」という単語を聞くと、原子炉や溶鉱炉などに代表される坩堝(るつぼ)のようなものを想像してしまうかもしれません。しかし、実際はそのような大掛かりなものではなく、室内に設けられた浅い掘り込みを伴う焚(た)き火程度の火を扱う施設、すなわち今でいうところの囲炉裏(いろり)のことをいいます。もっとも平成生まれの人たちには囲炉裏すらわからないかもしれませんね。

 右側の写真は囲炉裏を復原したものです。埋蔵文化財センター内に設置されている栄区郷土資料室(管理は栄区役所地域振興課)にあるもので、元々横浜市立矢沢小学校内にあったものを移築し展示しています。

 囲炉裏は近世以降の東日本エリアの日本家屋には、居間などに設置されることが多く、天井や梁から自在鈎にお鍋をぶら下げて使用していました。ちなみに西日本では自在鈎ではなく五徳(ごとく)に乗せて使用するのが一般的であったようです。

 なお、自在鈎(じざいかぎ)は焚き木の量による炎の調整ではなく、吊り下げた鍋を上下に動かすことで調整するために考えられたものです。熱くなりすぎたら鍋を上に上げ炎から遠ざけ、また、温くなりすぎてしまったら下げて炎に近づければよいから便利です。

 もちろん自在鈎を使用するような立派な囲炉裏は、家屋の床面が高い位置に造られるようになってからのもので、古代以前のいわゆる竪穴住居のような半地下式構造の家屋では床面の一部を浅く掘り込んで造っていました。こうした炉のことを地床炉と呼びます。
 地床炉はその構造上、灰を掻きだすことを繰り返し行なうことで、周囲の脆くなった土も掻きだされで徐々に大きく、また深くなっていきます。なお、大型の竪穴住居などには複数の炉跡が確認されることもあります。

 電気のない当時は、炉は単なる調理用の火元(コンロ)の用途だけではなく、照明や暖房器具としても利用していました。また、故意に煤(すす)を発生させることで、柱や屋根材を燻(いぶ)して、防虫効果や耐久効果を得る知恵もあったようです。炉で火を焚けば焚くほど、周辺の土は被熱変化して赤味を帯び硬化してきます。発掘直後の竪穴住居の炉の中は、見事に赤い色をしています。しかし時間をおくと、土の中の水分がなくなり、酸化して薄暗い灰色のような色調になってしまいます。磯子区岡村町にある国指定史跡の三殿台遺跡のなかには、住居跡保護棟と呼ばれる建物があり、発掘調査の終わった状態の様子を見ることができますが、やはり赤味がなくなってどこが炉跡であるかを探すのが大変になっています。

   

保土ヶ谷区明神台遺跡の住居(右の赤い場所が炉跡)

栄区郷土資料室に復元された居間

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